パパ様を退治に
【3】
……ダメだ。全然だめ。
落ち着いてこれまでの流れを思い出してみたけれど、何ひとつ解決しやしない。
やっぱりわからない、何がどうしてこうなった!?
あたしは魔王の娘。言うなれば魔王の手先。人間の王様の命令で魔王討伐の旅に出てる場合じゃない!! っていうか、旅の目的地「魔王の棲む城」って自宅だし!!
何の間違いか知らないけど、もちろんあたしが勇者であるわけがない。あっていいはずがない。でもあの場で一体あたしに何ができた? 「この者が勇者であります」と高々と宣言されて、「いいえワタシ魔族だからそんなワケない、ヒト違いデス」なんて答えられると思う? 絶対ムリ。
あたしは引きつった曖昧な笑みを浮かべながら王の前まで連れていかれました。
そしてそのまま、こんなことに……。
あああああ。
あたしの苦悩を知ってか知らずか、馬車はゴトゴトどんどん進む。幌をそっとめくって外を見ると、お城ははるか後方に小さくなっていた。出発した時よりもスピードが上がっているようだ。
あたしは幌の外に出て、馬車の前方で馬を器用に操っている「運転手」の傍へ行った。彼はサーク――つまりあたしのもともとのお供だったヤツだ。
「サーク!! どうするの、本当にこんな無意味な旅を続けるわけいかないでしょ?」
背後の幌の中まで声が届かないように、抑えた声であたしは言った。
サークは黒縁の分厚いメガネの奥でちらりと目をこちらへ向けたけれど、すぐに視線を前に戻してしまう。彼の伸ばしっぱなしになっている黒髪が風を受けてさらさら揺れる。
「それはお嬢様しだいですよ、わたくしはあなたの忠実なるしもべですから決定権はありません」
涼しい顔であっさり答えやがった。あたしは軽くキレた。
「ちょっと、いっつもうるさくあたしに指図してくるくせに、こんな緊急事態に限ってあたしに責任なすりつける気?」
「そんな、責任を押しつけてるつもりはございません。お嬢様の自由意志を尊重したいだけです」
「やめてよ気持ち悪いなっ、『お嬢様』なんて呼ばないで。その嘘っぽい敬語もよして、あたしら幼なじみでしょ!? しかもあたしの方が2つ年下なんだから」
「しかし、お嬢様には敬意を持って接するようにと、常々家臣たちに注意されておりましたから」
「あんたにあたしに対する敬意なんてこれっぽちもないじゃん、そういうの慇懃無礼っていうんだよ。それに今はふたりきりでしょ。上下関係がどうのとかうるさい家臣たちはここにはいないんだからね」
「でも、仕事とプライベートはきっちりしとかないと……」
彼は「お嬢様にわがまま言われて困った家来」みたいな哀れな表情を作ってみせる。でも内心少しも動じてないってことくらい、あたしにはわかってた。だって生まれた時からずっと一緒に育ったんだからね。それがヤツのやり方なんだ。まったくもう、演技派なんだから。でもあたしだって、こんな時のサークに言うことをきかせる切り札がある。あまり使いたい手ではないけれど。
「あーもう、わかりました。じゃあこれは『お嬢様』としての命令です。後ろに控えてる『勇者様ご一行』の皆さんに怪しまれないためにも、あたしに対してお嬢様とか言ったり敬語使ったりするのは金輪際よしなさい。いいこと? あんた命令なら言うこときくんでしょ? 今は仕事中なんだから」
あたしがこう言うと、彼は観念したように、大げさにため息をひとつついた。メガネの奥からあたしを流し見る。心の読めない紅い瞳。
「もう。わかったよ。敬語やめればいいんだろ。とにかくさ、幌の中に戻ったら? ここ危ないよ、落ちたらどうするんだ」
「だーかーら! まだ話が終わってないんだってば。どうするの? これから」
「そりゃもちろん、このまま最後まで行く気はないさ。どこかで隙を見てこのパーティーを抜け出そう。だけど今すぐ行動にうつすのはまずい。後ろにお目付け役が4人も控えてるからね。彼らの実力を見極めてから対策を考えても遅くないだろ」
「そんな悠長なこと言ってていいの? お父様のお城からここまで来るのに徒歩で3日もかからなかったよ?」
「大丈夫。それは魔族しか知らない『近道』を通って来たからだろ。人間の王に渡された地図に、魔王城までの『正規のルート』が載ってるんだけど、これはものすごい遠回りになるよ。このとおりに行ったらたとえ馬車でもいつになったら着くんだかわかんないね。もちろん僕はこの地図に従って馬を進めている。そうしろって王様の命令だからさ」
サークは皮肉げに笑った。
「そんな……近道を知ってるのにわざわざ遠回りしてくわけ?」
「時間を稼ぐためにも、『仲間』たちに怪しまれないためにも、その方がいいだろ?」
「……わかった」
どこか釈然としないものが残ったけど。
「じゃあお嬢様、わかったなら早く幌の中に戻って」
「お嬢様って呼ばないでって言ってるのに!」
「はいはい、僕もわかったから、おとなしく幌の中に戻ってね、レリス」
最終更新日:2003.10.12
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