パパ様を退治に


【6】 

 キメラの襲撃に遭った後、あたしたちは再び馬車を走らせ、陽が落ちるまで進んだ。そして適当な広さのある場所で馬を止め、小さな焚き火を作り簡単な夕食をすませると、以降は自由時間となった。明日に備えて早々と寝る者(ルキとミオウ)、自らの武器を几帳面に磨き始める者(アーノル)、いつまでも鏡で自分の顔を見ている者(ケイティー)、などがいたが、あたしはキャンプファイアの後片付けをしているサークを手伝うフリをして、小声でそっと「他の仲間に聞かれてはまずい」会話を始めた。
「ちょっと、どうゆうこと!? なんでモンスターに襲われなきゃなんないわけ!!? あたし達、王宮へ行く途中で一度もモンスターになんて遭わなかったじゃない」
 サークはお皿を乾拭きしながら答えた。
「何度も言うようだけど、僕らが来る時に通って来た道は言わば魔界の抜け道なんだよ。安全かつ最短の、ね。それに対して、今僕らがたどっている道は人間の王が指定した、まさに『王道』なわけ。誰でも見つけられるし通れる道なんだ。つまりモンスターも猛獣も何でもござれってところ」
「〜〜〜!! あっっっの、オヤジっ!! 勇者をわざわざ危険にさらしてどうする」
「しょうがないよ。そうやって勇者はレベルアップしてく仕組みなんだからさ」
 などと、ふたりでよくわからない会話をしているところへ。
 唐突に、あまりに唐突に、ケイティーが愛らしい小さな顔をのぞかせた。
「……!!!」
 あたしは声にならない声をあげてしまった。
 ――ああ、びっくりした。どっから出てきたの、この子??
 いつもは何事にも平然とした表情を崩さないサークも、さすがに今回ばかりは目を丸くしていた。だって本当に、あたしたちは一瞬前まであたりに人の気配を感じ取ることができなかったんだもの。まるで瞬間移動でこの場に現れたみたい……。
「あのねっ、私、ふたりに訊きたいことがあるんだぁ〜」
 彼女はあくまでマイペース。何事もなかったかのように、桜色のふっくらした唇をひらく。
「単刀直入に言うんだけどぉ……、ふたりって、本当にもともと勇者志望だったのかなぁ? って、ギモンなんだよねっ」
 ぎ、ぎくぅっ。
 無邪気な顔してなかなか鋭いところをついてくるじゃない……。しかし彼女の追及はまだ続く。
「それに、今もね。勇者をやってく気、本当に、あるのかなぁ?」
 ケイティーの声は甘くて高い。でもその口調の裏には、ひやり、となんだかとても冷たいものが感じられた。
「ど、どうして? どうしてケイティーはそんなふうに思うの?」
 平静を装った私の声は、不本意ながら少し掠れてしまう。
「だぁってー。私たちが魔王の悪口言っても話にのってこないし、王様の偉大さを褒め称えてもやっぱりのってこないし。挙句の果てに、王様を『あのオヤジ』呼ばわりだし? それに」
 ケイティーの上目遣いの目が、何か企むようにきらりと光った。
「それに、ふたりとも。瞳が、紅いんだもの……」

 ばれちゃった。
 やっぱり、ばれちゃった。
 隠し通せるわけないって、そりゃ、最初から思ってはいたけど。
 でもモンスターの襲来であたしの顔を見せる見せないのゴタゴタはどっか行ってたし……戦いが終わって、ふと気が付いたら顔周りを隠してたローブがずれて、もう普通に顔見せてたし。それで何にも言われなかったし。もしかして、どうにかったのかなぁ、なんて思ってた。たまたま、四人の仲間のうち誰一人として、「紅い瞳を持つ者は魔族である」なんて知識がなかったのかなぁ、って。思ってたさ、あたしは。
 そんなあたしが馬鹿だったのね……。ああ。
 まあ、そんなわけで。
 大ピンチ! ってやつじゃないですか、コレ。
 昼間のモンスター襲来より、ある意味よっぽどマズい展開です。
 さぁて、どうしよう。
「で? 君はどうするつもりだい? 『やる気がない』僕らを、処分するの」
 サークが感情をのせない声で静かに問うた。メガネの奥の目がすっと細められている。なんかちょっと……、冷たいオーラが出てますけど。コワいんですけど。
 ケイティーは気圧されて一歩 後退った。
「やぁだな、早とちりしないでぇ。私はどういうつもりなのかって訊いてるだけだよっ」
「どういうつもりかって? どういうつもりでもないよ。すべては単なる成り行きだからね」
 ケイティーは意外そうに大きなおめめをぱちくりした。
「え? うそ? 本当に?」
「本当に」
「うそ、うそでしょっ? 絶対、本当に?」
「うそじゃない、絶対絶対、本当に」
 彼女はもう一度 目をぱちくりすると……ふいに、楽しそうに笑い出した。それも心の底から楽しそうに。いつもの、演技して作られたアニメ声のような笑いではなく、明るく快活な笑い声だった。
「そうなんだー……へぇー……そうっかー」
 彼女はひとしきり笑い、何かひとりで納得していた。
「ねぇちょっと、そっちこそどういうつもりなの? あたしたちをどうする気よ?」
 わけがわからず、いらいらした声であたしが言った。
 するとケイティーはまだ笑いながら答えた。
「どうするって……あはは、何にもしないよ。他の人には黙っててあげる」
「何にもしないって……それでいいわけ? あたしたち、本物の勇者じゃないんだよ」
「どうして? 本物の勇者でしょ? だって王様に正式に任命されちゃったんだもん」
「それはっ……そうだけどっ……でも本当に魔王退治になんて行けるわけないじゃない」
「さぁね〜それはどうかな、わからないよ?」
 彼女は意味深に呟いた。
「どういう意味? ……あ、あなたまさか占いで未来をみたの!?」
 彼女はまた笑い出した。あたしは大真面目で言ってるのに。
「違うよ、私に未来は見えない。私が占いでみるのは過去だけなんだから」
「じゃあ、一体どういう……。あなた何を企んでるの?」
 ケイティーは肩をすくめてみせた。そして次のように語った。
「企むなんて、人聞き悪いな。私は王様に恩返しをしたいだけ。私は昔、王様に助けられたことがあるの。王様はきっと覚えてらっしゃらないと思うけれど……でも私にとってはかけがえのない恩人なの。だから恩返しがしたかった。ただそれだけだよ。勇者になりたかったっていうよりは、王様の手助けができれば何でも良かったから。私があなたたちふたりのことを責めないのにはふたつの理由があるんだ。ひとつはね。私、運命の力を信じてるの。意図したものでなく、偶然起こってしまった出来事は、実はきっと偶然なんかじゃなくて、何かしらの意味があるんだ、って。だから、レリスが勇者に選ばれたのにも、きっと何か理由があるんだと思う。もちろん、それが王様にとって吉と出るか凶と出るかは、私にだってわからないけど。でもしばらくは様子を見ようと思うわ。それからもうひとつの理由だけど……まあこれは口で説明するより目で見た方が早いわね」
 そこまで言うと、ケイティーはふいに口をつぐみ……そしてなんと。
 彼女は次の瞬間、その場からふっと、まるで煙みたいに姿を消してしまったのだった……。

最終更新日:2003.10.20

表紙
BACK
// NEXT
HOME // 小説TOP // 掲示板



広告 [PR] 再就職支援 わけあり商品 冷え対策 無料レンタルサーバー ブログ blog