パパ様を退治に


【7】 

 「ど……どこ行ったの!?」
 びっくり仰天してしまってあたしはうろたえた。だっていきなり目の前から人がひとり消えたんだよ? まるで空気にとけてしまったみたいに、しゅわっと……。
 横目でサークを見ると、彼はケイティーの消えたあたり……つまり今までケイティーが立っていた地面のあたりに視線を落として、目を軽く見開いていた。最初、彼もあたしと同じようにケイティーの消失にただ驚いただけだと思ったんだけど。彼があまりにも一点を凝視しているのを不審に思って、あたしも彼が見ているあたりをちらっと見た。そして固まった。
 ケイティーが立っていた地面の上、高さ30センチばかりの空中に、「何か」がいた。
 小さな、緑色の「もの」。全長10センチくらいだろうか。まるっこくて、ふわふわして、何かのぬいぐるみのように見えた。背中にはぱたぱたと動く小さな羽がついている。顔の中心で、大きなまるい目が、こちらを窺うように見ていた。
 言葉を失くしたあたしに向かって、「そいつ」は口を開いた。
「ま、こういうことよ」
 何がこういうことなんだか、混乱したあたしにはさっぱりわからなかったが、しかしその声には聞き覚えがあった。高くて甘い、アニメに出てくる少女のような声。あたしの中でひとつの仮説が急浮上しつつあった。
 まさか……まさかまさか、ケイティーとこの緑のぬいぐるみ然としたやつは、同一人物??(ぬいぐるみもどきを「人物」と表現するのにはちょっと抵抗を感じるが)
 彼女はあたしの心を読んだように、にこりと笑った。そして何でもない冗談のように言った。
「占い師のケイティーちゃんは、実は人間ではなくて、精霊なのでしたー」
 ……もうやだ、理解不能だ、この子。

 その後、必死に耳を塞いでケイティーから逃げようとするあたしをつかまえて、彼女が語ったところをまとめると。(彼女はもう人間の姿に戻っていた)
 要するに、彼女もまた、ある意味ではあたしたちと同じ立場ということだ。彼女は「人間ではない」という正体を隠して、「勇者選定の儀」に紛れ込んでいた。あたしたちと目的は正反対だったけれど。彼女には王様に対する悪意はないが、それでも正体がバレるといろいろまずいらしかった。人間は偏見の多い生き物だから。善意あふれる、ありがたい精霊にだって、気味が悪いとか何とかいって虐待しかねない。
 だから彼女は、あたしたちのことを他言しないと言った。自分もまた「正体を隠している」という後ろめたさがある以上、人のこと言えた立場じゃないと。
 「でも、あなたが自分から正体をバラすようなことをしなければ、誰もあなたが人間ではないかもしれない、なんて疑いは持たなかったと思うんだけど? あたし、全然気がつかなかったし」
 そうあたしが言うと、ケイティーは鼻でわらった。
「気がつかないのはあんたたちが無知なせい。人間と魔族を見分ける方法があるように、人間と精霊と見分ける方法だってあるんだから。知ってる人が見たらすぐわかるもんだわよ」
 ずっと思ってたのだが、この子なんかさっきから喋り方が変わってるし、態度がどんどん高慢ちきになっている。なんでこんな偉そうなんだろう? 精霊には選民意識でもあるんだろうか?
 そんなことを思っていたら、今までずっと黙っていたサークがやっと言葉を発した。
「そうか……忘れてた。精霊なんか今では絶滅危惧種だから、まともにお目にかかったことなんてなかったし……。そういえば前に文献で読んだことがあったんだ。人間と精霊と見分ける方法、それは」
「言わなくていい!」
 ケイティーがサークの言葉を遮った。
「なんで? あたし知りたいよ、どうやって人間と精霊を見分けるの?」
 あたしが言い募ると。
「プライバシーの侵害だわ」
 ケイティーはひとりでぷりぷりしている。何が彼女をそんなに怒らせるのか、あたしにはさっぱりだ。
 仕方なくサークが説明してくれた。
「まあ、その見分ける方法ってのは二重の意味を持つんだな。精霊と人間を見分けると同時に、その精霊の年齢までわかっちゃうんだよ」
 つまり、ケイティーは自分の年を知られたくないってワケ? そんな年齢を気にするような年には見えないけど。だって5歳ですと言われたらそうですかって信じちゃいそうなくらい幼く見える。でも実は結構いってるのかもしれない……なんせ精霊だし。いかにも長生きしそうじゃない?
 さて、一体いくつなんだろう?
 でもこのナゾは、結果的には相当長い間、解明されないままでいることになる。だからあたしはこれ以後ずっと、心の中では彼女を「ケイティーばあさん」と呼んでいた。

最終更新日:2003.11.2

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